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王国の境界を守る砦の主、辺境伯ユウ。彼の名は、国の隅々にまで響き渡っていた。
王都の豪奢な宮廷とは遠く離れた辺境──しかし、この地こそが王国の最前線であり、その安定はすべて彼の双肩にかかっている。国王は彼に全幅の信頼を置き、中央政府は彼の裁量に異を唱えぬ。王国の統治権は、この領域に限ってはユウに一任され、彼の決断が法となる。
その権限は絶大だった。軍を動かし、法を定め、貴族と商人の行方すら左右する。中央に伺いを立てることなく、独断で外交すら行えるほどに。通常、こうした権力を持つ者には監視と制限が設けられるものだが、ユウに対してはそれがなかった。
理由はただ一つ──彼が揺るぎない忠誠と才覚を持つ人物だからである。幾度も王国を危機から救い、その手腕は疑いようがなかった。実際に、隣国が攻めてきた際も、国中が大騒ぎになる中、エドウィンと国王から懇願されたユウは、仕方なく「絶対的支配空間」を使い、あっという間に敵を撃退した。王都の宮廷では彼に対する畏敬と嫉妬が入り混じっていたが、誰もその権威を覆すことはできなかった。
そう、この地の猛獣の森が攻略されれば、王国の特殊な地形ゆえにユウの領地へと辿り着き、王都は目前となる。その事情から、領主の重要性は増し、さまざまな権限の行使が許されているのだ。
国王と初対面した現場に居合わせた最高位の幹部たちは、その目でユウの実力とオーラを感じ取っていた。その者たちが「逆らうな」と口をそろえて言うのだから、逆らえるはずがない。上級貴族数名も現場で同じ光景を目にしており、彼らも同様だった。王女や王子からも絶大な支持を得ている上、王女を筆頭に、三大貴族の娘二人が彼の妻に加わっていた。
そんな状況にもかかわらず、ユウは国王の座を狙わず、叙爵をも拒んでいた。「俺は森の小屋で静かに暮らす。何かあれば助ける」と言い、実際に他国から攻められた際には撃退した功績もあった。「あの辺境の地を守る者は、王国そのものを支える者と同義。」
それが国王の言葉だった。そして、その信頼の証が、ユウに与えられた統治権であった。王国の境界を守るその者の命令は、王の言葉に等しい。領民はそれを知っていたし、貴族たちも理解していた。たとえ不満を抱いても、彼の判断を覆せる者はどこにもいない。ユウが統治するこの地において、彼の決断こそが法であり、秩序であり、そして絶対的な力であった。
その場しのぎの国王の社交辞令や取り繕った言葉だと思っていたが……しかし、本当に叙爵され、正式に「辺境伯」となってしまった。エリーにリリアとエリシアを連れて王宮でレオと合流し、国王が正式に爵位を授与してしまったのだ。しかも、要人らしき者たちの前で大々的に行われた。
「……どうして、こうなったんだぁぁ!」
森の小さな小屋でエリーと暮らせれば、それだけで良かったはずなのに。今はユナやレイと知り合い、離れられなくなっているが、俺とエリーが面倒を見なければ彼女たちは危険だ。それに……可愛い。他の子も可愛いが、それなりの地位があり危険はないだろう。まあ、可愛いし……「好きだ」と言われ結婚し、お互いに幸せで、エリーも認めてくれているから良いのだが。そして何よりも、全員が能力値が高く、助けてくれるのがありがたい。
そんなこんなで、色々と面倒が片付き、また……面倒が起きて片付け終わり、一息ついて気分転換に町をぶらぶらと彷徨っていた。
「はぁ、エドウィンは色々と仕事をしていたんだな……いや、あいつは……有能な配下が大勢いる。俺も有能な部下が欲しいな。そして、その者たちに全部丸投げしてやる。」
まあ、現状それに近いけどな。
この領地をあっさりと俺に譲ったエドウィン。アイツ、気前がいいと思っていたら、俺が無知だからってこの領地を譲ったのだろう……。辺境伯という、王国の防衛の要を任されるとは。まあ、別に良いけれどさ……。王国の地形が、この領地の防衛を複雑にしている。
王都は王国の中心にあるが、その一部には深い森と険しい山々が広がり、そこには猛獣や魔獣が生息している。この脅威によって、要塞建設は難航し、たとえ完成しても魔獣の襲撃によって陥落する危険性が高かった。実際、他国に攻め落とされる可能性よりも、魔獣による壊滅のほうが現実的な脅威だったのだ。
要塞の防衛には、自給自足による長期籠城が唯一の選択肢となるが、それには兵の交代や食糧問題、そして任務に就く兵士が残してきた家族の生活といった、様々な課題が伴う。
この森の危険性ゆえに、敵軍も容易に攻め込むことは躊躇する。しかし、もし森を突破されれば、王都へはわずか馬車で一日ほどの距離となる。つまり、この領地が陥落すれば、王都は目前に晒されるという、極めて重要な地形なのだ。
ゆえに、国王はエドウィンたちとともに、この領地の防衛を最重要課題としている。俺の采配に絶大な信頼を寄せ、領地防衛に強い関心を持っているのもそのためだ。
当然、彼女に笑顔はなく、一点を見つめて動かない。食事を出して様子を見ていたが、一人にしておくのが良いかと部屋から出て寝室へ向かおうとした、その時だった。 ガタッと椅子から立ち上がった少女が、ユウの服を掴んだ。「……一人に……しないで……また、おそわれちゃう。」 震えるような、しかし可愛らしい声だった。「いや、男に乱暴にされたんだろ。俺がいると落ち着かないんじゃ……?」 ユウの言葉に、少女は無言で首を振る。「分かった。じゃあ、隣に座るがいいか? ちゃんと飯を食えよ……?」 少女は無言で頷いた。言われた通りに、おずおずと一口食べ始めると、パンとスープを完食した。すると、隣に座るユウの服をすぐに掴んだ。「どこにも行かないから、大丈夫だぞ」 ユウはそう言って、優しく頭を撫でた。あまり触れられるのも嫌かもしれないから、これくらいにしておくか、と彼は思った。 ……って、どうやって寝るんだよ。俺、どうすれば……!?「……なあ、寝るのはどうするんだ? 一緒には寝たくはないだろ?」 ユウの問いに、少女は首を振る。……どっちだよ!?「一緒に寝たくないんだろ?」 ユウがもう一度聞くと、少女はぶるぶると……首を横に振った。「……じゃあ、一緒に寝るのか?」 コクリと頷く少女。 ……そっか。まあ、俺は良いけど。可愛いしな。 夜も遅い。寝室に入ると、同じベッドで横になったユウを見て、少女は嬉しそうな顔をした。多分、ベッドで寝られることが嬉しいのだろう。「安心して寝ていいぞ。誰も襲ってこないからな。」 ユウの言葉に、少女はコクリと頷いた。彼女の表情には、ようやく安堵の色が浮かんでいた。 寝ながら、ユウは孤児院について考えていた。この命の軽い世界で、もし孤児たちを保護すれば、たちまち財政難に陥るだろう。きっと「ここに来れば保護してもらえる」と、他の領地からも孤児が押し寄せてくるに違いない。「大して金もかからないか……一日二食で空き家を使うとか。人里離れた場所で?」 そうすれば孤児院の情報が漏れるのを防げるが、ただ育てるだけになってしまうだろうか。畑仕事や料理を教えて……弁当屋でも始めるか。それにしても、職員が必要だな、とユウは考えた。「ふぅ~疲れた。精神的に……」 その時、ゴロンとミレディが抱き着いてきた。これでは動けない。安心しきった顔で眠って
この領地の価値は計り知れない。王都に近く、それでいて森と魔獣が自然の要塞となる。そのため、国王から厚遇され、統治権を一任されているのだ。 俺の住む小屋は――そんな危険な森のど真ん中にある。 だが、俺にとっては庭のようなものだ。猛獣が出ようが、魔獣が現れようが、敵兵士が踏み込んできたところで――どうにでもなる。 実際、敵国がこの領地を攻め込んできたこともある。 だが――俺一人で蹴散らした。俺の持つほぼチート級のスキルと身体能力で、あっという間に敵を退けたのだ。 その圧倒的な実績があるからこそ、俺は自由にこの領地の統治を任されている。どこか安心しているような国王の態度を見れば、この領地の防衛が俺にとって造作もないことだと信じているのだろう。 ――この領地と森は、まさに俺の庭だ。 誰が来ようと、俺が守る限り、そう簡単には落ちない。♢♢♢「俺が辺境伯となり数週間経ち、少しは落ち着いてきたな……」 そう呟きながら、ユウは夜の大通りを歩いていた。 それにしても、エリーにリリアとエリシア、ミリーナには助けられる。領地経営なんて全く分からないのだから。 ブツブツと独り言を言っていると、路地裏の方から女の子の悲鳴が聞こえてきた。「疲れてるんだけどなぁ……」 周囲を見回すが、警備兵の姿は見当たらない。放っておけるわけもなく、ため息をつきながら悲鳴の聞こえた裏路地へと足を踏み入れた。 路地裏へ足を踏み入れた瞬間――世界が一変した。 まるで街の喧騒が断ち切られたかのように、**音が消える。**風すら止まり、冷え冷えとした空気がじわりと肌を刺した。壁の隙間から漏れ出る青白い光が、陰気な影を伸ばし、ゆらゆらと揺らめいている。 道は細く歪み、無秩序に積み上げられたゴミ袋が異様な沈黙を保つ。まるで、何かが潜んでいるかのように──得体の知れない視線が背後から感じられる。 鼻を突くのは、腐臭と湿気の入り混じった独特の匂い。地面に広がる黒ずんだ染みが、ただの泥なのか、それとも……。遠くで響く、何かが軋むような音。それは風のせいか、それとも──誰かの気配か。 影と影の狭間に、じっと潜むものがある。 この場所は、夜の闇を飲み込み、沈黙の恐怖を孕んでいる。「これも改善しないとな……」 そう思いつつ先に進んで行くと、女の子が襲われている現場に遭遇してしまった。
王国の境界を守る砦の主、辺境伯ユウ。彼の名は、国の隅々にまで響き渡っていた。 王都の豪奢な宮廷とは遠く離れた辺境──しかし、この地こそが王国の最前線であり、その安定はすべて彼の双肩にかかっている。国王は彼に全幅の信頼を置き、中央政府は彼の裁量に異を唱えぬ。王国の統治権は、この領域に限ってはユウに一任され、彼の決断が法となる。 その権限は絶大だった。軍を動かし、法を定め、貴族と商人の行方すら左右する。中央に伺いを立てることなく、独断で外交すら行えるほどに。通常、こうした権力を持つ者には監視と制限が設けられるものだが、ユウに対してはそれがなかった。 理由はただ一つ──彼が揺るぎない忠誠と才覚を持つ人物だからである。幾度も王国を危機から救い、その手腕は疑いようがなかった。実際に、隣国が攻めてきた際も、国中が大騒ぎになる中、エドウィンと国王から懇願されたユウは、仕方なく「絶対的支配空間」を使い、あっという間に敵を撃退した。王都の宮廷では彼に対する畏敬と嫉妬が入り混じっていたが、誰もその権威を覆すことはできなかった。 そう、この地の猛獣の森が攻略されれば、王国の特殊な地形ゆえにユウの領地へと辿り着き、王都は目前となる。その事情から、領主の重要性は増し、さまざまな権限の行使が許されているのだ。 国王と初対面した現場に居合わせた最高位の幹部たちは、その目でユウの実力とオーラを感じ取っていた。その者たちが「逆らうな」と口をそろえて言うのだから、逆らえるはずがない。上級貴族数名も現場で同じ光景を目にしており、彼らも同様だった。王女や王子からも絶大な支持を得ている上、王女を筆頭に、三大貴族の娘二人が彼の妻に加わっていた。 そんな状況にもかかわらず、ユウは国王の座を狙わず、叙爵をも拒んでいた。「俺は森の小屋で静かに暮らす。何かあれば助ける」と言い、実際に他国から攻められた際には撃退した功績もあった。「あの辺境の地を守る者は、王国そのものを支える者と同義。」 それが国王の言葉だった。そして、その信頼の証が、ユウに与えられた統治権であった。王国の境界を守るその者の命令は、王の言葉に等しい。領民はそれを知っていたし、貴族たちも理解していた。たとえ不満を抱いても、彼の判断を覆せる者はどこにもいない。ユウが統治するこの地において、彼の決断こそが法であり、秩序であり、そして絶対的